苦い酒

 

 

 

 

 

 

ちょっと苦労した人間なら、酒の有り難みというのは十分わかると思う。

 

 

 

 

 

酒はなにも馬鹿騒ぎするために、

 

 

 

話の潤滑油のために在るのではなく、

 

 

 

むしろ、苦節を味わったときに飲む一杯に

 

 

 

 

親みたいな包容力を生んでくれるものだ。

 

 

 

 

 

己の愚かさをやんわりと流してくれて

 

 

 

不安や、哀切などで眠れない夜も

 

 

 

あれのおかげでどうにか横になれたりする。

 

 

 

 

 

 

 

私は周りから、酒豪だと指をさされる。

 

 

 

 

ここだけの話 強いほうではないが、

 

 

 

ただ誰かの肩に世話になるのは恥ずかしいことだと心得て酒を飲む。

 

 

 

 

 

実は、自宅にたどり着くまで必死に気を張っているだけなのだ。

 

 

 

 

 

 

さすがに焼酎の五号瓶を一本、二本と空にしてしまえば私とて前後不感になるし

 

 

 

その場で小水を漏らしてしまいたくもなるが

 

 

 

 

家までもうすこし、がんばるんだ

 

 

 

と飛びそうな意識をどうにか保ちつつ、足を前へ前へ動かす。

 

 

 

 

 

ようやく自宅に着くなり、玄関であれ、便所であれ、

 

 

気絶するように眠ってしまうこともあったし

 

 

 

目が覚めたら、ベッドの上で衣服がずぶ濡れの時もあった(服を着たままシャワーを浴びたと思われる)。

 

 

 

それでも、たっぷり飲んだ最後、

 

 

闇に颯爽と消えていくまで足元もしっかりしている私の後ろ姿を見た誰かが

 

 

ヤツは酒豪だ、と後ろ指をさしたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

酒をよく飲むのは悪いことではないのだが、

 

 

 

自ら酔っ払い、誰かの世話になる輩を見ると、たしなみはないのかと思う。

 

 

 

せっかく飲み食いしたものを吐いてしまう連中も、

 

 

 

店の者に失礼だとは思わないのか。

 

 

 

 

気立てのいい女将がこしらえた小料理屋で、ジョッキを高々と掲げながら馬鹿騒ぎする人は、想像力が乏しい。

 

 

 

もし隣席のお客さんが、伴侶や恋人や親友を失くして飲んでいる苦い一杯なら、もはや言葉にならない。

 

 

 

 

そういう店には、哀しみをグッとこらえて 独り酒をやる人がいる。

 

 

 

 

騒ぎたいなら場所を変えたほうがいい。

 

 

 

 

 

 

 

酒は呑む人と、呑まない人がいる。

 

 

 

 

酒を知らずとも生きていけるし、無理に呑むものではない。

 

 

 

 

 

しかし、あのとき酒がなかったら……と今でも思うことが多々ある。

 

 

 

 

 

 

人の生は切ないことがやってくるもので

 

 

 

 

それを精神力だけで克服できるほど人は強靭な生きものではないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

今晩も、酒の世話になる。乾杯

 

 

 

 

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