男の失恋 2

 

 

 

 

 

私の友人が、女に振られて

 

 

もう死んでしまいたい、と口にした。

 

 

私はびっくりして、飲んでいた酒を噴き出しそうになった。

 

 

 

「物騒なことを言うんじゃない」

 

 

彼の顔を覗き込むと、頬を濡らしておられる。

 

 

おいおい本気なのか。

 

 

 

 

 

 

 

私は、たいした人だナ、と思った。

 

 

彼が羨ましくもなった。

 

 

 

 

事業なり、起業をして世界一の大金持ちになった成金の男と

 

 

世界で唯一無二の相手とめぐり逢って、

 

 

その人が自分のとなりにいなければ自死の考えも頭にちらつかせる男を比べれば

 

 

この世に生まれてどちらが良かったか。

 

 

 

 

私には答えがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

斯くして恋愛というものはしばしば人を狂わせる。

 

 

 

十分に大人の歳になっている人が、

 

 

別れでもめて自殺するケースがあるが

 

 

それは違っている。恋で死ぬような男はバカだ。

 

 

 

それでも、なかなかな人だナ、と思わざるをえない。

 

 

 

 

 

「しかしこんなにも哀しくなるような出来事、大切な彼女に経験させなくてよかったじゃないか」

 

 

 

男の立場では、

 

 

女のほうが別れた後も何かと大変だろう、失恋がこんなにも辛いものなら、

 

 

振られたのが俺のほうでよかった、と思って対処した方がよろしい。

 

 

「ああ、たしかにそれもそうだナ…」

 

 

すこし楽になれる。

 

 

 

 

 

実際は女のほうがはるかに立ち直りが早いし、

 

 

少し時間が過ぎれば、そんなことあったっけと平然と口にする。

 

 

 

むしろ男のほうがひとつの恋愛を長く引きずるのは常識である。

 

 

 

 

 

それでも、いつだって男が女を振るのはかたちが悪いもので、

 

 

男から振るんじゃない、というのが私の考えだ。

 

 

別れに際して男が、労を惜しむな。

 

 

 

女、子どもを泣かすようなことを男がしてはいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恋人と別れて(死別も含む)絶望の淵にいても、

 

 

時間はクスリという言葉がある。

 

 

時間はいつか哀しみのかたちを変え、

 

 

気持ちをやわらげてくれる。

 

 

新しい光さえ見せてくれる。

 

 

 

ましてや死別でなければ、

 

 

それぞれ平気で生きて相手の知らぬ場所で大笑いもする時もいずれやってくる。

 

 

 

 

「すぐに元気を出してくれなんて言わないが、おまえが死ねば、私は誰と愉しく酒を飲めばいい。生きてさえいりゃなんとかなるが、死ねば出来ぬことばかりじゃないか」

 

 

 

友人とコクリと頷いて、焼酎をあおった。

 

 

 

「すまなかった」

 

 

 

「イイ飲みっぷりですなお客さん、次いかがされますか」

 

 

大将が身を乗り出して、カウンター席に座る私たちに訊く。

 

 

 

「米、ロックを」

 

 

 

「じゃあ、私も同じのを」

 

 

「悪いな付き合わせて」

 

 

 

私は首を振った。

 

 

 

 

 

男が女のことで自死するのはバカだが

 

 

心中にまで至るほど、至福の恋愛をしていたのだから

 

 

バカなことを、の一言で片付けられない。

 

 

 

 

 

イイ恋愛がありますように。

 

 

 

 

 

コメントを残す