北野武という男

 

 

 

 

夜半に目が覚めた。

 

 

「よし」

 

まだ始発も動いていない時間帯だが

 

私は支度を済まし、軽快に家を飛び出した。

 

 

 

 

今日という日が、愉しみでしかたなかった。

 

仕事の関係で、

 

北野たけしさんに逢うのだ。

 

 

いや、逢うというより、覗きにいくと言ったほうが正確だろうが。

 

 

 

 

 

たけしさんは、私が言うまでもなく、魅力的な人だった。

 

笑った表情などチャーミングであるが、

 

たけしさんがふと真顔になった瞬間

 

ハッ!とするほど艶気があった。

 

 

目に見えぬ圧が、半端じゃなかった。

 

なんとか一言だけでも喋れないだろうかと

 

思っていたが、

 

いざ本人を目の前にすると

 

やはり何者でもない私が近づける隙はなかった。

 

 

 

ーーーどういう生き方をしたら

 

あんな佇まいの七十歳になるんだ…

 

まるで人間力が違う。

 

 

 

 

86年の映像で

 

むかしフライデー襲撃事件の記者会見を一度観たことがある。

 

 

そのときは、男としての覚悟が

 

このような人間形成に繋がっていくのだろうと勝手に解釈していたが

 

たけしさんをじっと観察していると、

 

それは少し的を得ていないような気がした。

 

 

 

 

 

ホンモノは、耐えてきた人、耐えている人だ。

 

 

自分で見たものに善し悪しをつけ、

 

世の不条理を見抜き、

 

正義なんか、クソ喰らえだと

 

何かにつけて世間知らず。

 

 

そのせいで、何度だって底に沈んで

 

しかし、ヌクっと起き上がり這い上がってくるような、あやうい生き方が

 

人をかたちにするのだろう。

 

 

失敬、私なんぞが少々大口を叩きすぎた。

 

 

 

 

 

 

たけしさんの周りには

 

お弟子さんや、マネージャーさん(おそらく)など

 

たくさんの関係者が取り巻いていて

 

「殿」の世話をしていたが、

 

これじゃヤクザの組の××じゃないか、と笑ってしまった。

 

 

笑いが出るところに世界の北野たるものが滲んでいる。

 

あっ、そもそも漫才師(芸人)というのを忘れていた。

 

 

 

 

 

 

最後に、楽屋口でたけしさんの履物を見た。

 

とても綺麗なものだった。

 

ああ、お洒落なんだナ。

 

 

 

 

 

 

私は仕事終わりに、慌てて本屋に駆け込んで

 

ビートたけし著の書物を買った。

 

これが、たったの、千円である。

 

まったく喋ることもできなかったのに、

 

たった千円で、たけしさんの声が聴ける。

 

 

読まない理由がない。

 

 

 

 

『下心も精力もすっかりなくなった、オイラの言葉は一味違うぜ』

 

宣伝文からたけし節は素晴らしく、内容も、

 

 

「成宮寛貴、ゲイだからって芸能界辞めるな、堂々としてろ」

 

「昔は合法だったヒロポン(覚醒剤)、やんなかったのは萩本欽一だけ」

 

「オイラは沢尻エリカでエロ映画を撮りたいんだ」

 

 

 

と、たけしさんにしか言えないようなことが、おもしろおかしく綴られていて、

 

しかし核心を突いていて頷かされた。

 

 

 

 

 

テレビでニュースキャスターが原稿を読み上げていた。

 

「ビートたけしが、サッカーW杯について言及し…」

 

 

ーーーオイ、今なんと言った。

 

この小娘、何を抜かしやがる。

 

 

ビートたけしさん、と言え!

 

師匠と言え。

 

 

 

 

 

 

ホンモノの男とはかくあるべきか。

 

たけしさんの所作ひとつひとつが、脳裏に焼き付いた。

 

 

 

 

 

 

 

【フライデー襲撃事件 北野たけし 記者会見映像】

 

 

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