お元気ですか

 

 

 

私の生まれ育った町は、九州の博多という

 

かなり栄えた町だったが、

 

その町の中でも、下町のほうに生家はあった。

 

 

博多といえば、華やかで、

 

賑やかな町の顔もあったが、

 

通りを一本違えると、

 

その日暮らしをする人たちも多かった。

 

 

博多は陽と陰のふたつの顔をもつ土地でもあった。

 

もちろんそこに生まれ育つ子どもたちにも陽陰はあり、

 

私はどちらかというと貧乏と情深いものがあった。

 

 

 

両親は働いていて家を空けていることが頻繁だった。

 

冷蔵庫はいつも空っぽで、

 

学校から持ち帰った給食のパンや、

 

氷をかじって腹を満たした記憶がある。

 

 

毎日おなじ服を着ていた記憶があるし、

 

見てくれより遊ぶことに夢中で

 

青っぱなを垂らしながら走りまわっていた。

 

 

 

それに比べ、近所のH君は

 

おろしたての服を着ていて、すでにケータイや最新ゲームを持っていたり、

 

塾に通っていたり。

 

 

家に邪魔したときはケーキをご馳走になったりして、

 

「タダでいいんか?」

 

と思わず目を丸くした。

 

 

 

やはり私とはさまざまなことが違っていた。

 

 

 

そんな時よくつるむようになったのが

 

他の町内の兄貴分、Yくんだった。

 

Yくんは団地暮らしで、

 

そこに住む男の子たちを統括している番長だった。

 

 

仲間の誰かが、他所の町の悪ガキに殴られた話を聞きつけると、

 

ひとりで殴り込みにいくような頼れる兄貴分だった。

 

 

みんなは毎日Yくんと遊びながら、

 

さまざまなことを教わった。

 

 

「日が暮れてもあそこの公園で遊んどると、ババアがすぐ通報しちまう」

 

「傘鍵(自転車を盗むための道具)は、こうやって作れば怪我せんとよ」

 

「あっこの川は裸足で入るな。ガラスばっかじゃ」

 

「高架下のホームレスがキチガイなんは嘘。いい人やけん石 投げちゃいかんよ」

 

 

 

ある日、私が自電車を漕いでいると

 

たまたま遭遇したYくんに呼び止められた。

 

 

 

「おい、チャリでどこ行くとや?」

 

 

「あ、Yくん。レアカード当たったけん、ガジュマル(当時、近所にあったトレカ買取・販売店)に売りに行くとよ」

 

 

当時、金がなくてどうしようもなくなったとき、

 

当たったレアカードをしぶしぶ売りに出して

 

小銭に換えていた。

 

 

その小銭を持って駄菓子屋などに行けば

 

十分な買い物ができた。

 

 

 

「そうか、あそこの店長、ガキ相手やったらぼったくるけんな。気ぃつけぇよ」

 

「そうなんか?」

 

 

Y君が、私のアホ面をみて心配になったのか

 

「俺もついていこう」

 

と言ってくれて、私の自電車のうしろに跨(またが)った。

 

 

 

Yくんは案の定、そのぼったくり店長と口論になっていた。

 

他にも、原っぱでの野球などYくんからボールの投げ方、

 

捕り方、そして打撃も教わった。

 

Yくんが打つとボールは青空の彼方に吸い込まれるように高く飛んだ。

 

 

私は子ども心にYくんがまぶしいナと思った。

 

 

やがて中学に上がると、

 

Yくんは私たちとは遊ばなくなり、

 

いつも怒ったような顔をして中学校への道を歩いていた。

 

 

私が中学へ上がると、

 

Yくんは最上級生で笑って迎えてくれた。

 

 

同級生が私に訊いた。

 

 

「おまえ、あの不良と知り合い?」

 

「不良なんかじゃねえよ、あの人は」

 

 

 

 

 

 

Yくんは目につく悪さを徹底的にやってみせて、

 

あっという間に中学校を卒業していった。

 

 

噂によれば、中卒でヤクザに成ったとか、

 

 

闇金融に成ったとか、刑務所の中にいるとか

 

殺されちまったなど

 

さまざまな諸説がある。

 

 

 

噂話ほどつまらんものはない。

 

 

 

大半の人間が、

 

あいつはゴンダグレだの、愚か者だのと後ろ指をさす。

 

 

 

ただ私は、

 

 

人間はいつもかつも正しく生きていくことはできないものだ、と言い続けている。

 

 

まともなことだけをしてきたと言う人のほうが

 

小悪党の権化のように見えてしまう。

 

 

 

「Y先輩、ヤクザになったらしいよ」

 

 

地元の友人が教えてくれた。

 

 

「そうか」

 

 

 

 

 

ーーー生きていてくれて良かった。

 

 

 

 

すでにどこかで書いたが、

 

ひとを悪く言うことは空にむかって唾を吐いているのと同じだと思う。

 

悪口を言っている人をみると、

 

手前はどうした、と思う。

 

 

もちろん、犯罪の肯定はしないし、

 

人に迷惑をかけないことが第一であるが、

 

まずは、生きてりゃそれでイイんだ、とも思う。

 

 

 

 

 

今も変わらずお元気ですか、Yくん。

 

 

 

 

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