変わりゆくもの

 

 

 

 

ガラクタという言葉がある。

 

使い道がない、元の機能、価値のなくなった道具類や、

 

雑多な品物をいう言葉だ。

 

 

少年期、青春期、私は今よりもっと

 

ガラクタな人間だった。

 

 

第一に、勉強などしたことなかったし

 

そもそも椅子にじっと座っていられない少年だった。

 

学校の教室というのは、私にとって騒ぐところでしかなかった。

 

 

「お願いですから、授業中は寝ていてください」

 

と国語の先生に懇願された言葉が

 

今でも記憶に残っている。

 

 

悪事がバレると

 

体育のN先生のビンタはよく飛んできた。

 

N先生は、説教場所を選ばない。

 

頭にきたら、そこがグラウンドであれ廊下であれ、

 

お構いなしに怒鳴り散らかす人だった。

 

 

なにが嫌かと言うと

 

叩かれ続けて、赤く腫れあがっていく頰を

 

下級生に見られるのが死ぬほど恥ずかしかった。

 

 

「先生、場所を変えて、ビンタしてもらえませんか」

 

「お前は一体何を言っとるんだ」

 

ーーー私は何を言っているんだ…

 

 

 

 

廊下で、すれ違う女の子の

 

スカートをめくりあげて

 

「今日は水色だ!」

 

とゲラゲラ笑っているような

 

 

ガラクタ少年が(まったく…)

 

雨の日の昼休みに、

 

好きだった女の子を呼び出して告白した。

 

 

彼女は周囲を気にしながら

 

「あんたなんかと一緒にいたら恥ずかしい」

 

と小走りに立ち去った。

 

私は相手のうしろ姿を見ながら

 

雨が降るなか、傘をたたみ、顔を空にむけた。

 

 

 

 

放課後の帰り道、友人に

 

「まだまだ働きたくないし大学とやらに行きてえな」

 

と口を尖らせると

 

「お前、大学の前に通える高校あるんか」

 

と笑われて、取っ組み合いの喧嘩になった。

 

 

 

他はもう、ガラクタどころか

 

ゴミのような話しかないので、

 

ポケットの奥に仕舞っておくことにする。

 

 

 

 

そんなどうしようもない男も

 

喋りすぎると馬鹿がバレることや

 

紳士は女の子のスカートをめくってはいけないことを学び、

 

何人かとは充実した恋愛を送れたし、

 

なんとか四年制大学も卒業できた。

 

 

そして今、こうして偉そうなことをのうのうと書いている。

 

 

 

 

 

年の瀬、地元の友人たちが

 

小宴をやるということなので

 

普段は付き合いの悪い私だが、

 

年の瀬くらいはイイか、と酒場にむかった。

 

 

行ったら行ったで、

 

懐かしい顔ぶれが揃い、

 

愉しい宴になった。

 

 

 

「しかし、よく次から次に書くことがあるな」

 

友人らはスカートめくりの少年と、

 

今の私が最後までつながらない様子だった。

 

 

「お前は変わったな、もう帰り道に、道端で野糞をする癖は治ったか」

 

「何の話だ」

 

 

 

 

 

 

人は変われる。

 

もっと言えば、三日もありゃ変わる。

 
大事なのは覚悟をすることだ。

 

よし、俺はこういうふうに生きていくんだという覚悟。

 

宣言でもいい。

 

 

それが、人間にとって

 

いちばん大事な品性や人格につながっていく。

 

 

と、お便所の我慢もできなかった男が

 

偉そうなことを平然と書く。

 

 

 

 

 

 

成人式の日、

 

同窓会に先生も参加されていることを知り、

 

手土産をもって挨拶にいった。

 

 

N先生は頭に白いものが増え、ずいぶん小さくなったように見えたが

 

たしかにあの大きな手は先生のものだった。

 

 

「N先生、あの時は大変ご迷惑をおかけしました」

 

先生はきょとんとされていた。

 

「あ、古川です」

 

「古川?…お前、あの古川か。見違えたぞ!」

 

手を差し出され、握手を交わすと、

 

先生の手はさほど大きくはなかった。

 

 

 

同窓会の後の、

 

二次会、三次会の宴も終え、

 

同級生のみんなで朝日を迎える頃、

 

 

私は足早に帰り道を歩いた。

 

 

 

すると、誰かに名前を呼ばれ、

 

振り向くと女の子がこちらにかけ寄ってくる。

 

遠い日に、私が告白をして見事に振られた女だった。

 

 

 

「ねえ二人で帰らない?」

 

「ほう、俺と一緒にいたら恥ずかしいんじゃなかったのか」

 

 

「何の話?私、そんなこと言ったっけ」

 

 

 

人は変わりゆくものであって、

 

世の中はどうなるか、

 

まったくわからないものである。

 

 

 

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