出会いがない

 

 

故郷に戻り、地元の友人らと

 

焼き鳥屋で酒をやった。

 

 

腹が満たされれば、

 

店を数軒はしごして、

 

また酒を飲んで、歌なんか口ずさむ。

 

 

ドヤッと賑わったかと思うと

 

「出会いがねえナ、イイ女いねえかナ」

 

とか

 

愚痴を吐きながら、最後は静かになっていき、

 

それぞれ帰路につく。

 

 

新鮮味に欠けるというか、

 

向上性がないというか

 

まあ、これはこれで居心地がいい。

 

 

皆が散ったあと、私は

 

懐加減をたしかめて、

 

これならまだ飲める、独りでまとめの酒でもやるか、

 

とタクシーに乗り込んで中洲へ向かった。

 

 

店は、知り合いの先輩が

 

ひとりで切り盛りするカウンターだけの小さなバーに行った。

 

福岡で暮らしていた頃、

 

よく顔を出してはバーテンダーを朝まで付き合わせた。

 

 

それとなく先輩に挨拶をし

 

カウンターに腰を下ろして隣を見ると

 

 

隅で、ひとりの女性が酒を嗜んでいた。見ない顔だった。

 

 

 

「ウイスキーのロックでいいか」

 

私は頷いた。手元にグラスが置かれた。

 

先輩が、私がいつも頼む酒を覚えていてくれて嬉しかった。

 

ーーーそんなことより

 

 

 

 

私は、バーでも小料理屋でも

 

ひとり酒をやるような女性に惹かれてしまう。

 

好み、というよりかは、興味がわく。

 

 

どういう酒か、どういう事情を抱えているのか。

 

十の人間がいれば、十の事情がある。

 

ーーー独り酒は、大半が何かあるしナ。

 

 

できることなら愉しい酒であってほしいが、

 

哀しみの酒をする人もなかにはいる。

 

 

私は黙って呑むことにした。

 

女もずっと黙っていて、店内にはメロウなジャズだけが流れる。

 

女は煙草に火をつけたり、グラスを回したりしている。

 

こちらが眺めすぎたか、何度か目が合った気がした。

 

 

ゆったりした時間が過ぎていく。

 

 

 

痺れを切らしたバーテンダーが、

 

粋な一言で

 

その場を取り繕ってくれた。

 

 

「こちらは、僕の後輩なんですが、よかったら三人で乾杯しませんか」

 

 

女は快く受け入れてくれて、私の隣に席を変えた。

 

フワッと香水のにおいがしたが、

 

嫌な気持ちはしなかった。

 

長い髪が似合う華奢な女性だった。

 

 

お互い素性を明かさない程度に

 

挨拶を交わした。

 

興味はあるが、

 

こういう場で、根掘り葉掘り相手を知ろうとするのは良くない。

 

 

 

三人でたわいの無い会話をし、

 

酒やつまみを愉しんだ。

 

まとめの酒には丁度よかったので

 

私は頃合いで店を出ることにした。

 

 

「先輩、お会計をお願いします。」

 

すると、女も口を開いた。

 

「私も、お願いします。」

 

 

ーーーほう

 

 

窓から差し込むネオンの灯りに、女の横顔が浮かび上がった。

 

 

私はもう一度、懐加減をたしかめて

 

「じゃあ、こちらとまとめてお願いします」と言った。

 

先輩は微笑んで、頷いてくれた。

 

 

二人で店を後にした。

 

 

 

 

 

酒の席での、友人の愚痴を思い出す。

 

『出会いがねえナ』

 

私はそのあと何と答えたか憶えていないが

 

そうか?と首を傾げたのは確かである。

 

 

 

人生に無駄なものは何一つないというのが私の持論で、

 

常に外へ出て

 

街をウロウロしたほうがいい、と考えている。

 

 

この世界はなんだろう?

 

ということを見ようとする生きる姿勢のようなものがあれば

 

出会いは生まれるし、

 

恋愛も後から自然についてくる。

 

 

朝から晩まで部屋にこもって仕事をしています、

 

という人でも

 

それはせいぜい八時間くらいのことで

 

仮に寝る時間を八時間としても

 

一日二十四時間のなかで

 

残り八時間もあれば、その中で必ず出会いはある。

 

 

出会いがない、は私には言い訳にしか聞こえない。

 

 

本当に出会いたければ

 

みんな就職活動みたいに、

 

多少、身なりを綺麗にして、

 

必死になってウロウロすればいいんじゃないかナ、と思う。

 

 

出会っても、あくまでそれはまだ序盤に過ぎないので

 

急に身体を触ったり、

 

相手を押し倒したりすれば関係がおかしくなるのは

 

誰もが理解していること。

 

 

最初は慎んでおくように。

 

 

 

 

 

 

 

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